必殺シリーズの時代区分

初期・中期・後期の区分

必殺シリーズをどのように時代区分するかは、何を基準にするかによっていくつかのタイプに分けられる。ここで提示するのは筆者の個人的な価値観に基づくものにすぎず、すべてのファンにここでの時代区分案を強制するつもりはないことをあらかじめお断りしておく。

初期シリーズ 1作目・必殺仕掛人から10作目・新必殺仕置人まで

ピカレスクロマン>(お金を貰って人様のお命を頂戴する裏稼業の人間たちの姿を描くというテーマ)として作品が製作されていた時期を初期とする。
初期シリーズは第1期と第2期に分けられるが、5作目の必殺必中仕事屋稼業をどう位置付けるかで3つのパターンが考えられる。

  • パターンa

 第1期 1作目・必殺仕掛人から5作目・必殺必中仕事屋稼業まで
 第2期 6作目・必殺仕置屋稼業から10作目・新必殺仕置人まで

  • パターンb

 第1期 1作目・必殺仕掛人から4作目・暗闇仕留人まで
 第2期 5作目・必殺必中仕事屋稼業から10作目・新必殺仕置人まで

  • パターンc

 第1期 1作目・必殺仕掛人からまで4作目・暗闇仕留人まで
 移行期 5作目・必殺必中仕事屋稼業は過渡期または移行期の作品とみなす
 第2期 6作目・必殺仕置屋稼業から10作目・新必殺仕置人まで

第1期の特徴
必殺シリーズの土台(基本フォーマット)が形成された。「仕掛人」と「仕置人(2作目・必殺仕置人)」の2作品によって、その後のシリーズの土台・基礎となるフォーマットが形成される。「助け人(3作目・助け人走る)」は「仕掛人」の延長線上で、「仕留人」は「仕置人」の延長線上で、それぞれ続編的な作品が製作された。
*<ピカレスクロマン>、<カタルシスドラマ・懲悪ドラマ>(主人公たちが、頼み人の晴らせぬ恨みを晴らし、許せぬ悪人たちを制裁することによって視聴者にカタルシス感をもたらそうとするテーマ)という2つのテーマに基づいて作品が製作された。
*キーパーソン−山村総、津坂匡章秋野太作)、野川由美子

第2期の特徴
*第1期で形成された基本フォーマットを踏襲しながらも、シリーズごとに様々な創意工夫を凝らした応用発展期。新しいフォーマットを形成したわけではないので、形式化・様式化はみられるが、個々の作品は完成度の高いものが多い。特にスタッフたちが「必殺」の魅力・特徴を充分に把握するようになったので、脚本も演出もマニアックなファン心理をくすぐるものが多い。
(この時期の形式化・様式化をワンパターン化の予兆とみるか、様式美の完成とみるかは人によって意見がことなるだろう。筆者からみれば、必殺のマンネリ化の予兆は、原作なしのオリジナル作品としては1作目にあたる「必殺仕置人」の時に既にみられる。元々マンネリ化・ワンパターン化しやすい題材を扱いながら、創造力の高さによって水準以上の作品を5年間10作近くも創り続けたことが凄いことなのである。シリーズが長期化すればマンネリ化や質の低下に直面するのは当たり前のことであって、後期シリーズのマンネリ化や質の低下の原因を1975年に製作された「必殺仕置屋稼業」にもとめるというのは、的外れで底の浅い意見にすぎない。80年代以降いかにレベルの低い「仕置屋」批判、「仕置屋」バッシングが繰り返されてきたかは、また別の機会に書きたいと思う。)
*<ピカレスクロマン>重視の製作姿勢。「仕置屋」「仕業人(7作目・必殺仕業人)」「新仕置人」の3作品は、ピカレスクロマンというテーマのもつ魅力や背徳性を全面的に追及した「ピカレスクロマン3部作」ともいうべき作品である。この間に<ピカレスクロマン>度の弱い2作品「8作目・必殺からくり人」「9作目・必殺からくり人血風編」が製作される(ただし「からくり人」は、ピカレスクロマン度は薄いが作品の完成度は高い)。
中村主水が必殺のメインキャラクターとなる
*キーパーソン−中尾ミエ渡辺篤史
 緒方拳、山崎努沖雅也は初期シリーズ全体のキーパーソン。草笛光子山田五十鈴は初期から中期(以後)にかけてのキーパーソン。

テーマを重視すれば「仕事屋」は第1期に、基本フォーマットやキーパーソンを重視すれば第2期に分類できる。第1期、第2期どちらの要素も備えていて、中村主水がサブ的ポジションからメインポジションに移行する狭間にあるから、移行期・過渡期に位置させることもできる。私自身は、テーマ(ピカレスクロマンというテーマ)を重視しているので、第1期最後の作品に分類している。

中期シリーズ 11作目・新必殺からくり人から14作目・翔べ!必殺うらごろしまで

中期シリーズ=第3期の特徴
*転換期・試行錯誤期。第1期の基本フォーマットを踏襲して出来ることはほぼやりつくしてしまったので、あらたなフォーマットを模索したり、確立したフォーマットを壊したりすることによってマンネリ化を防ごうとした時代。
市井で暮らしている一見普通の人が裏稼業を営んでいるという、従来の「江戸定着もの」にかわり「殺し旅」というあらたな設定が考案される。「江戸定着もの」を踏襲した「12作目・必殺商売人」では、主水の「種なしかぼちゃ」という設定が壊される。「うらごろし」はそれまでの様々な設定に変更が加えられる。
マンネリ化を防止するために様々なアイデアがだされる。「錦絵を炙ると殺す標的が浮かび上がる」という設定。「うらごろし」でのオカルト色の導入等。
*<ピカレスクロマン>というテーマの放棄、<カタルシスドラマ・懲悪ドラマ>というテーマに基づいた作品製作。
頼み人の晴らせぬ恨みを晴らす、悪人たちを制裁するというテーマが強調され、初期のシリーズにあった背徳感がなくなる。主人公たちも、義賊・人助け的な意識で仕事を行うキャラクターが大部分となり、稼業(ビジネス)として冷徹に裏の仕事を行うというプロフェッショナル(プロの殺し屋)がいなくなる。
スタッフがなぜ<ピカレスクロマン>というテーマを放棄したのかはわからない。ピカレスクロマンとして描きたかったことは、「新仕置人」までですべて描きつくしたのかもしれない。あるいはピカレスクロマンに重きをおいた作品では視聴率がとれないと判断したのかもしれない(関東に限れば「仕置屋」「仕業人」「新仕置人」の平均視聴率は、「新からくり人」「商売人」よりも低い。)。


           関東平均視聴率  関西平均視聴率
 1・仕掛人      16.6%    22.1%
 2・仕置人      22.8%    26.1%
 3・助け人      18.6%    22.8%
 4・仕留人      19.8%    24.9%
 5・仕事屋      16.4%    22.4%
 6・仕置屋      13.4%    20.4%
 7・仕業人      11.6%    18.3%
 8・からくり人    11.2%    16.7%
 9・血風編       9.0%    14.5%
 10・新仕置人     10.9%    17.1%
 11・新からくり人   14.8%    20.0%
 12・商売人      14.6%    17.2%
 13・冨嶽百景     13.3%    14.1%
 14・うらごろし    11.5%    12.2%
 15・仕事人      15.2%    17.8%
   ビデオリサーチ (「週刊テレビ番組」第14巻第34号 昭和62年8月28日号 東京ポスト発行より)

個人的な感想を言えば、<ピカレスクロマン>の放棄がもたらしたシリーズの質的変化はかなり大きい。
初期のシリーズは矛盾する2つのテーマを抱えていたことが、作品にダイナミズムをもたらし、また作品世界に奥行きをもたらしていた。
テーマが<カタルシスドラマ・懲悪ドラマ>1つになってしまったことにより、作品(世界)が「勧善懲悪時代劇」に近い平板なものになってしまった。
ストーリーの面からみても、初期は「ピカレスクロマンに重きをおいたもの」「カタルシスドラマ・懲悪ドラマに重きをおいたもの」「2つのテーマの矛盾や葛藤を活かしたもの」「2つのテーマに関係なくつくられたもの」とバラエティに富んだ作品が製作されていた。
しかし中期以降は、悪役の悪事や被害者・頼み人たちの悲しみの姿を描いた作品が大半となり、単調な作品が増えた(一部のファンは、マンネリ・ワンパターン化した後期の作品をバラエティ路線などと言って非難していたのだから面白いものである。バラエティ番組を舐めているとしかいいようがない)。
*殺し旅の設定、山田五十鈴(からくり人)が主水シリーズよりもメインとなる。
*主水シリーズと非主水シリーズのキーパーソンの共演がみられる。
  「商売人」の藤田まこと草笛光子
  「13作目・必殺からくり人冨嶽百景殺し旅」の山田五十鈴沖雅也
*キーパーソン−火野正平鮎川いずみ

後期シリーズ 15作目・必殺仕事人以降

「必殺仕事人」に対しては、雑誌などでよく原点回帰した作品と語られている。
筆者自身は必殺の原点は<ピカレスクロマンというテーマ>にあると考えているので、「仕事人」が原点回帰した作品であるとは思っていない(必殺の原点について筆者と異なる考えをもつ人が原点回帰を唱えるのは、その人の自由であるので否定はしない)。
まあ原点回帰のことは別にして、「仕事人」がシンプルになった作品であるとはいえる。マンネリ化を防ぐための試行錯誤は影を潜め、初期の基本フォーマットを踏襲したオーソドックスな作品作りがなされた。考えられるアイデアはすべて出し尽くしたし、基本フォーマットを無視した「うらごろし」が視聴率的に惨敗したから、マンネリ化してもいいから、視聴者がイメージしているだろう「必殺らしい作品」を作ろうという、一種の開き直りを感じさせる作品である。
*後期シリーズのテーマに関しては、中期シリーズに対して述べたことがそのままあてはまる。
ただ、「仕事人」の途中で、ワンパターン化した作品を求める視聴者のためにワンパターン化した作品を製作するという、「必殺の水戸黄門化」ともいえる現象が生じた。
また、17作目の「新必殺仕事人」の途中からは「ダーティヒーローものからヒーローものへ」という根本的な変化が生じた。これによって必殺の主人公たちは、裏世界に生きるアウトローから庶民の味方・正義の味方へと変質した。このことは既に「必殺!裏稼業の凄い奴ら」(フットワーク出版社 1994年刊行)でも触れられているが、私自身も気が向いたらあらためて書いてみたい。
後期シリーズをさらに細分する場合、内容で区分するのならば「新仕事人」の途中で本質的な変化が生じているが、それよりも出演者によって区分するのが無難であろう。
 第4期 15作目・必殺仕事人から21作目・必殺仕事人4まで
 移行期 22作目・必殺仕切人
 第5期 23作目・必殺仕事人5から29作目・必殺剣劇人まで
 「必殺仕事人・激突!」以降の作品は製作時期が離れているので例外とした。
*後期のキーパーソン 鮎川いずみ、西崎みどり、山田五十鈴ひかる一平
*第4期のキーパーソン 三田村邦彦、中条きよし、京マチ子高橋悦史本田博太郎
*第5期のキーパーソン 村上弘明京本政樹かとうかずこ