テーマとストーリーからみた必殺シリーズの変遷3

暗闇仕留人(4作目)

仕置人を継承したテーマとストーリー

テーマの特徴

前作の「助け人走る」が「必殺仕掛人」の延長線上で制作されたのと同様、シリーズ第4弾となった「暗闇仕留人」は、設定・キャラクター・テーマ・ストーリーとも「必殺仕置人」の延長線上で制作されている。
仕置人同様<カタルシス(懲悪)ドラマ>のテーマに重きがおかれ、<ピカレスクロマン>のタイプも「プロフェッショナル型」ではなく「テロリスト型」となっている。ただ、ピカレスクロマンのテーマを隠蔽・自主規制するという前作の方針はここでも受け継がれ、仕置人にあった毒々しさはかなり薄められて、仕置人よりはスマートで洗練された作風となっている。
オープニングナレーションは、仕掛人、仕置人で表現されたテーマをより文学的な言葉で表している。
「黒船このかた泣きの涙に捨て処なく、江戸はひとしく針地獄の様呈しおり候」の個所は、仕置人の「この世の正義もあてにはならぬ」に対応している。
「尽きせぬこの世の恨み一切、いかようなりとも始末の儀請け負い申し」は、仕掛人の「晴らせぬ恨みを晴らし、許せぬ人でなしを消す」、仕置人の「闇に裁いて仕置きする」に対応している(<カタルシス(懲悪)ドラマ>を表現)。
また、「万に一つもしくじり有るまじく候」は、仕掛人の「人知れず仕掛けて仕損じなし」に対応。
「但し右の条々闇の稼業の定め書き、口外法度の仕留人」は、仕掛人の「但しこの稼業江戸職業づくしにはのっていない」、仕置人のエンディングナレーションに対応している(<ピカレスクロマン>を表現)。

 −テーマとキャラクターの関係
仕置人の「テロリスト型ピカレスクロマン」を継承したこのシリーズは、やはり中村主水がそのテーマを体現するキャラクターとなっている。第1話で、主水が再開した半次とおきんに裏稼業再開の決意を語るセリフにそのことが表れている。
しかしピカレスクロマンのテーマを自主規制するという姿勢が続いているために、糸井貢、大吉のキャラクターには、テーマとの関連がそれほどつよくはみられない。助け人の中山文十郎、辻平内同様に、各作品ごとに人助け的な意識を持ったり、稼業として割り切ったりして裏の仕事を行っている。
また、中村主水も仕置人の時ほどは感情を表に出さず、淡々と仕事をしている姿が増えている。これはテーマが表に出ていないために、仕留人たちが「義賊・人助け的な存在」なのか「殺し屋」なのか、仕置人のような「自ら悪となって悪を裁く存在」なのかがはっきりしていないためであろう。
(後から振り返れば、主水が仕置人から「プロの殺し屋」へと変貌を遂げる過渡期にいたことがわかるが。)

ストーリーの特徴

仕置人の延長線上で作品を制作するという姿勢は、ストーリー作りにも反映されている。
悪役の悪事や仕事の依頼の原因となる事件・出来事、被害者・頼み人の悲しみの姿を描いたプロットを軸にした「カタルシスドラマ」「シリアスドラマ」が全体の3分の2近く、残りの3分の1近くがフィクション・ハードボイルド性のつよい作品となっている。
(仲買人の存在しない「直接依頼型」の設定のシリーズは、仕事の依頼を受けた後のプロットを描きづらいという理由もある。)
ただ、仕置人がクライマックスの仕置のシーンにおけるカタルシス効果を重視しすぎて、筋書き(ストーリー展開)の面白さを軽視していた側面があったので、このシリーズは筋書きの面白さも留意して制作されている。
なお、フィクション・ハードボイルド性のつよい作品にもシリアスな人間ドラマの要素を盛り込んでいくという点は、仕置人と同様である。

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必殺必中仕事屋稼業(5作目)

ピカレスクロマンの復権仕掛人を継承したテーマとストーリー

テーマの特徴

助け人、仕留人と2作続けて<ピカレスクロマン>のテーマを薄めた作品が制作されたが、このシリーズから再びピカレスクロマンのテーマが強調されるようになった。ナレーションにそのことが表れている。
このシリーズのナレーションには、それまでのシリーズにあった「晴らせぬ恨みを晴らす」「悪人たちを制裁する」という<カタルシス(懲悪)ドラマ>を表現するセリフがなくなった。オープニングナレーションのセリフ「とかくこの世は一天地六、命ぎりぎり勝負をかける、仕事はよろず引きうけましょう」は、博打のような緊張感をもった裏稼業にとりくむ仕事屋たちの心情を表現しているし、エンディングナレーションのセリフ「どうせあの世も地獄と決めた、命がっさい勝負にかけて、燃えてみようか仕事屋稼業」はピカレスクロマンのテーマを表現している。
ただし、ナレーションにはカタルシス(懲悪)ドラマの要素はなく、ピカレスクロマンのテーマしかみられないが、作品自体は仕掛人同様2つのテーマに同じ比重をおいて制作されている。むしろ、元締のおせいが頼み人から報酬を受け取らずに仕事を引き受けるケースがあったこと、裏の仕事が殺しだけに限らず、金のない者・力のない者たちを助けるために様々な依頼を引き受けていることを考慮すると、仕掛人よりもピカレスクロマンのテーマは薄いといえるかもしれない。
だが、ピカレスクロマンとカタルシスドラマ、背反する2つのテーマに基づいて作品作りを行うという初期の姿勢は復活されている。

 −テーマとキャラクターの関係
仕掛人にみられた、元締が<カタルシス(懲悪)ドラマ>を体現し、殺し屋が<ピカレスクロマン>を体現するという方針が再現された。
元締のおせいは、「テーマの特徴」で既に述べたように「義賊・人助け」的な意識のつよいカタルシスドラマを体現するキャラクターである。
それに対して半兵衛、政吉の2人は、「人助け」や「悪人を制裁する」という意識で裏稼業を行っているわけではなく、「生きるか死ぬか。勝つか負けるか」といった裏の仕事の博打性に惹かれているピカレスクロマンを体現したキャラクターとなっている。

ストーリーの特徴

このシリーズは、キャラクターの個性、殺し技、映像(作風)などはそれまでのシリーズにない独創的なものになっているが、設定、テーマ、ストーリーは仕掛人の流れを継承している。
そのためストーリーは、仕事の依頼を受けた後の仕事屋たちの裏稼業を描いたフィクション・ハードボイルド性のつよい作品がメインとなっている。
また、フィクション・ハードボイルド性のつよいストーリーの中にシリアスな人間ドラマの要素を盛り込むという点も仕掛人と共通している。
ただ、殺し以外の仕事も引き受けているため、探偵稼業を描いたようなストーリーも若干みられる(このあたりは、助け人との共通性がみられる)。

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