テーマとストーリーからみた必殺シリーズの変遷2

必殺仕置人(2作目)

2つのテーマの融合、シリアスドラマ重視のストーリー

テーマの特徴

シリーズ第2弾、原作なしのオリジナル作品としては第1作にあたる「必殺仕置人」も、<ピカレスクロマン><カタルシス(懲悪)ドラマ>の2つのテーマから成り立っているが、このシリーズの製作姿勢は「仕掛人」とは多少かわってきたため、テーマの比重・ストーリーの特徴ともに前作とはことなったものとなっている。
当時のスタッフは、「仕掛人」の高視聴率の原因は<ピカレスクロマン>のテーマよりは<カタルシス(懲悪)ドラマ>のテーマにあると考えたらしく、このシリーズでは<カタルシス(懲悪)ドラマ>のテーマが全面的に追及されることとなった。
設定においては、仲買人の存在を廃し、仕置人たちが直接頼み人から仕事を請け負うことによって、裏の仕事が単なる稼業ではなく、頼み人の晴らせぬ恨みを晴らす行為であることが強調されるようになった。
また仕掛人(特に藤枝梅安)は、頼み人への同情や殺す相手への怒りの感情を持たずクールに仕事を遂行したのに対し、仕置人は殺す相手への怒りの感情をむき出しにして仕置きを行っていた。
このような仕置人たちの裏稼業は、「仕掛人」での殺し屋的な裏稼業とはことなり、どちらかといえばテロリスト的な行為といえる。「悪人に対して怒りの感情をむき出しにして、自ら悪の上をゆく悪となって悪人たちを仕置きする、という意識をもった仕置人たちの裏稼業」を描いたテーマは、「仕掛人」の「プロフェッショナル型ピカレスクロマン」に対して、「テロリスト型ピカレスクロマン」と呼ぶことができるだろう(ただし、本物のテロリストは何らかの目的をもって、誰からも報酬を受けず自主的に殺しを行うが、仕置人は頼み人から依頼を受け、相応の報酬を受け取って殺しを行っているので、殺し屋とテロリストの両義的あるいは中間にいる存在といえる)。
オープニングナレーションの「のさばる悪をなんとする、天の裁きは待ってはおれぬ、この世の正義もあてにはならぬ、闇に裁いて仕置する」というフレーズは、自ら悪となって悪を制裁する仕置人の「テロリスト型ピカレスクロマン」のテーマを的確に表現しているといえる。
また、<ピカレスクロマン>と<カタルシス(懲悪)ドラマ>のテーマは矛盾していると同時に反比例の関係にあった。だが「テロリスト型ピカレスクロマン」のテーマはその中に2つのテーマを内包しているので、両者が正比例の関係になった。仕置人たちの行う仕置きは、懲悪的であり恨みを晴らすという要素のつよい行為でありながら、同時に法的にも倫理的にも許されない背徳的な悪の要素のつよい行為でもある。仕置きする相手が悪党であればあるほど、カタルシスドラマとしての懲悪性とピカレスクロマンとしての背徳性がつよまるという構造をもっている(ただし、その中にカタルシスドラマのテーマを内包している分、ピカレスクロマンとしての背徳性は「プロフェッショナル型ピカレスクロマン」よりも弱くなっている)。

 −テーマとキャラクターの関係
このシリーズのテーマ「テロリスト型ピカレスクロマン」が、ピカレスクロマンとカタルシスドラマ2つのテーマを内包していることを反映して、キャラクターの性格設定もバランスのとれたものとなっている。3人の仕置人の中で最も殺し屋的性格がつよい念仏の鉄は、ピカレスクロマンの背徳性を体現している。正義感がつよく、しばしば感情にまかせて悪人を仕置きしようとする棺桶の錠は、カタルシスドラマの懲悪性を体現している。そして、屈折した正義感とドライな感情の両面をもった中村主水は、2つのテーマの両義性をもつ「テロリスト型ピカレスクロマン」を最もよく体現したキャラクターとなっている。

ストーリーの特徴

前作の「仕掛人」ではストーリー展開(筋書き)の面白さを重視した作品作りがなされていたが、<カタルシス(懲悪)ドラマ>により重きをおいたこのシリーズは、悪役の悪事をより濃密に描き、頼み人や被害者たちの悲しみの姿をよりリアルに描くことによって、クライマックスの仕置きシーンでのカタルシス感を強めるという姿勢がとられた(特に第7話頃からその姿勢が強調される)。
仕掛人」では仕事の依頼を受けた後のプロットがストーリーのメインとなっていたが、「仕置人」では仕事の依頼がおこる前のプロット(悪事、依頼の原因となる事件や出来事)および被害者・頼み人たちの描写がストーリーのメインとなった。
シリーズ全体の3分の2ちかくが「シリアスな人間ドラマ」であり(特に「仕掛人」と比較すると「カタルシスドラマ」の比重が高い)、残りの3分の1ちかくがハードボイルド・フィクション色のつよい作品となっていた(フィクション性よりは、ハードボイルド性の方が高いという特徴もある)。
ハードボイルド・フィクション色のつよい作品の場合も、その中にシリアスな人間ドラマの要素を盛り込んでいた点で、「仕掛人」と対照的な作品となっていた。

まとめ

「仕置人」は「直接依頼型」の設定をとるなど、「仕掛人」とはことなる基本フォーマットを生み出したが、テーマやストーリーの面でも前作とのちがいをうちだした。「テロリスト型ピカレスクロマン」という、プロの殺し屋を描いた前作とはことなるテーマを描き、ストーリーにおいては、仕事の依頼前のプロットを軸にしたシリアスな人間ドラマ中心の作品作りがなされた。
「テロリスト型ピカレスクロマン」というテーマは、その後「暗闇仕留人」にわずかにその痕跡がみられるだけだが、「仕置人」で確立したストーリー作りは、「暗闇仕留人」「必殺仕業人」「必殺商売人」を経て後期のシリーズに継承されていった。

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助け人走る(3作目)

ピカレスクロマンの隠蔽、仕掛人型のストーリーに仕置人型の要素をミックス

テーマの特徴

シリーズ第3弾「助け人走る」は、設定・キャラクター・ストーリー等「仕掛人」の延長線上で製作されているが、テーマには若干の変更がみられる。
元々「仕掛人」放映当時から、お金を貰って人殺しをするという<ピカレスクロマン>のテーマに対してかなりの批判があったそうであるが、ファンの間では有名な「仕置人」放映時の殺人事件が原因となって、番組存続のために<ピカレスクロマン>のテーマを隠蔽するという方針がとられる(タイトルから必殺の文字が外れたのもそのためらしい)。
スタッフたちは苦肉の策として、助け人の裏稼業を「お金を貰って人助けをし、必要とあれば人殺しもする」という設定に変更した。「人助け」というテーマを全面に押し出すことによって、その背後にあるピカレスクロマンの要素を隠そうとしていたといえる(ただし、スタッフたちはピカレスクロマンのテーマを隠そうとしただけで、放棄したわけではないだろう。番組後半、新キャラクター龍の登場、第24話での為吉死亡以後は、ピカレスクロマンのテーマが徐々に表面に現れ始めている)。
このシリーズは、ピカレスクロマンのテーマを隠すために「人助け」という要素を全面にうちだし、それによって<カタルシス(懲悪)ドラマ>のテーマが強調されるという特徴をもっているといえる。
オープニングナレーションは、「人助け稼業」をそのまま表現したものとなっている。

 −テーマとキャラクターの関係
このシリーズはピカレスクロマンのテーマを隠蔽した影響か、前作までのシリーズのようなテーマをキャラクターに反映させる手法がとられていない。中山文十郎も辻平内も、人助け的な意識を持って裏の仕事を行ったり、稼業と割り切って行ったりと各回ごとに意識はばらばらである(キャラクターに魅力がないと言っているわけではないので、誤解しないようにして頂きたい)。だが元締の清兵衛は、仕掛人の元締同様<カタルシス(懲悪)ドラマ>を体現し、途中参加の龍は<ピカレスクロマン>を体現しているといえる。

ストーリーの特徴

テーマ以外は「仕掛人」の延長線上で製作されたこのシリーズは、ストーリー的にも仕掛人と同様の手法がとられ、助け人の裏稼業を描いたフィクション色のつよい作品が多い。ただ、裏の仕事が殺し以外のものもあるので、仕掛人にはなかったタイプのものも若干製作された。また、仕置人の影響か、仕掛人に比べて悪役の悪事や被害者・頼み人の悲しみの姿の描写が多い。特に裏の仕事がそのままラストの殺しのシーンに結び付かない作品も多く、助け人の(殺し以外の)仕事の描写と「カタルシスドラマ(悪役の悪事や被害者・頼み人の悲しみの姿を描いたドラマ)」が同時進行するパターンのものもかなりみられる。
プロット的には助け人の裏稼業を描いたフィクション色のつよいストーリーがメインだが、シリアスな人間ドラマの要素も仕掛人以上につよくなっている。
仕掛人の作品作りに、仕置人的な要素を付け加えたシリーズといえる。

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