今回の内容もファンの間では既に知れ渡っていることであり、今頃そんなわかりきったことを言うなといわれるのを覚悟で記述します。
鳥山明の「ドラゴンボール」は、その黄金時代、一定の物語のパターンをもっていた。かつて敵だったものが、より強大な敵の出現によりやがては仲間になるというパターンは、作中クリリンによって語られていたが、もう1つ、物語の構成(構造)にかかわるパターンがあった。
A.孫悟空、敵との戦いでダメージを受ける
B.孫悟空、修業などによってパワーアップする
その間、悟空の仲間が敵と戦う
C.仲間が敵にやられそうになり、危機一髪のところで悟空が登場
D.悟空と敵との戦い−悟空の勝利
最初にこのパターンがでてきたのは、「レッドリボン軍編」のタオパイパイ(桃白白)のエピソードのときだった。
A.悟空、桃白白と戦って負ける。負傷する。
B.悟空、カリン塔でカリン様の下で修業。
(仲間と敵の戦いではないが)ウパ、桃白白に襲われる。
C.ウパ、桃白白にやられる。悟空登場。
D.悟空と桃白白の戦い。 − 悟空の勝利。
[其之85−其之92] JC=JUMP COMICS 第8巻
「レッドリボン軍編」では、このパターンは壮大なストーリーの中の一エピソードにすぎなかった。
だが、のちの「ピッコロ大魔王編」では、このパターン自体が物語の骨格となった。
ピッコロ大魔王編 [其之135−其之161] JC第12巻−第14巻
P=プロローグ
P.クリリン、タンバリンに殺される。悟空もタンバリンにやられる(天下一武道会で力を使い果たしたため)。
・シンバル、ドラゴンボールを探す。タンバリン、武道家狩りを実行。
・悟空、ヤジロベーと出会う。ヤジロベー、シンバルを倒す。悟空、タンバリンを倒す。
A.悟空、ピッコロ大魔王と戦い敗れる。一時、心臓が止まるがヤジロベーに助けられる。
−(並行して)亀仙人、天津飯らのドラゴンボール探しも描かれる。
B.亀仙人とピッコロ大魔王の戦い。亀仙人、魔封波に失敗、力尽きて死す。
・ピッコロ大魔王、ドラゴンボールを7つ集め、「若さを取り戻す」。チャオズ(餃子)、ピッコロに殺される。ピッコロ、神龍を殺す。
B.ヤジロベー、悟空を背負いカリン塔を登る。
・ピッコロ、世界征服
B.悟空、超神水を飲んでかくされた力が引き出される。
B.天津飯、魔封波の修業。
B.天津飯、ドラムと戦う。
C.天津飯、ドラムに倒される。悟空登場。
D.悟空、ドラムを一撃で倒す。
D.悟空とピッコロの戦い。 − 悟空の勝利。ピッコロ大魔王、死ぬ前に卵を残す。
サイヤ人/ベジータ編 [其之195−其之241or242] JC第17巻−第21巻
P=A
・ラディッツ登場。悟飯をさらう。ピッコロ、悟空と共闘。
A.ピッコロと悟空、ラディッツと戦う。悟飯も参戦。ラディッツを倒すが悟空も死ぬ。
B.悟空、界王様のもとで修業。悟飯、ピッコロに鍛えられる。天津飯、クリリンら神様のもとで修業。
B.ベジータとナッパ、地球に来襲。
ピッコロ、悟飯、クリリン、ヤムチャ、天津飯、チャオズ、サイヤ人と対峙。 −この間悟空、蛇の道を通って帰還中。
サイバイマン対天津飯、ヤムチャ(死亡)。乱戦化。
ナッパ対ピッコロら。チャオズ死亡、天津飯死亡。
ナッパ対ピッコロ、悟飯、クリリン。ピッコロ、悟飯を助けて死亡。
C.悟飯、絶体絶命のピンチに悟空登場。
D.ナッパ対悟空。悟空の勝利。
ベジータ対悟空。悟空、大猿化したベジータにやられて重傷。
悟飯、クリリン、ヤジロベー参戦。
悟飯、大猿化。ベジータ、大猿化した悟飯の下敷きになり重傷。
・クリリン、悟空の頼みをきいてベジータを助ける。ベジータ、宇宙船に乗って逃亡。
「桃白白」のエピソードが人気があったので、このパターンを物語の骨格にしたのかは不明。
「ピッコロ編」「サイヤ人編」と2作続けて同パターンの物語を作っているから、作者ならびに編集者は、この時期物語作りの黄金のパターンを手にしたといえる。
この時期の作者が凄かったのは、同じパターンの物語を作りながらも骨格への肉付け、細部の描写はより緻密になり、スカウター等読者を惹きつける様々なアイディアも豊富に盛り込まれ、ワンパターン化・マンネリ化を感じさせなかった点にある。
ただ、同パターンの物語を3作続けるのはさすがにまずいと考えたのか、次の「ナメック星/フリーザ編」は「レッドリボン軍編」を彷彿させるドラゴンボール争奪戦が繰り広げられた。だが、「レッドリボン軍編」の中に桃白白のエピソードが挿入されていたのと同様、「ナメック星/フリーザ編」の中にも、前述したパターンが物語を構成する一部分として組み込まれていた。
ナメック星/フリーザ編 [其之243−其之329] JC第21巻−第28巻
「ナメック星編」の前半部分は、ナメック星での悟飯・クリリン、フリーザ一味、ベジータ、3グループによるドラゴンボール争奪戦が物語の骨格を成していた。
だが、この前半部分を前述したパターンのBパートとみなすこともできる。
A.「サイヤ人編」での「悟空とベジータの戦い−悟空、重傷を負う」の部分が、Aパートに相当。
B.ナメック星でのドラゴンボール争奪戦。 −(並行して)ロケット内での悟空の修業が描かれる。
B.ギニュー特戦隊登場。グルド対悟飯・クリリン。ベジータ、グルドを倒す。
リクーム対ベジータ。ベジータ重傷。クリリン、悟飯もリクームと戦う。.
C.クリリン、リクームにやられて重傷。悟飯もリクームにやられて瀕死の状態に陥る。悟空登場。
D.悟空、リクームを倒す。悟空対バータ・ジース。バータやられる。
ギニュー対悟空。ギニューのボディチェンジで、体を交換させられる。
この後、ナメック星の最長老やネイル、さらに復活したピッコロも巻き込んでのバトルが展開するが、後半は前述したパターンが物語の基本的な骨格になっていると解釈できる。
A.(悟空の体を乗っ取った)ギニュー、ジースと悟飯、クリリン、ベジータの乱戦。ジース、パワーアップしたベジータにやられる。
悟空、元の体を手にいれるが重傷を負う。ギニューはカエルの体になる。
B.悟空、宇宙船の中のメディカルマシーンで治療を受ける。
B.ピッコロ復活。ネイルと融合。
フリーザ対ベジータ、悟飯、クリリン。フリーザ変身。
(変身後の)フリーザ対ピッコロ。フリーザ第二段階の変身。ピッコロ重傷。
ベジータ、わざと重傷を負いデンデに治療させる(パワーアップ)。フリーザ第三段階の変身。
(最終形態の)フリーザ対ベジータ。
C.ベジータ、瀕死の状態に。悟空、治療終わり完全復活。ベジータ死す。
D.(最終形態の)フリーザ対悟空。クリリン、フリーザに殺される。悟空スーパーサイヤ人になる。
(最終形態の)フリーザ対スーパーサイヤ人悟空。 −界王、神様らの知恵でナメック星人ら復活、地球に移動。
悟空、勝利。
E(エンディング).ナメック星消滅。クリリン、ヤムチャ、チャオズ、天津飯生き返る。ナメック星人新たな星へ移住。
「ナメック星/フリーザ編」の前半部分は、「ドラゴンボール」序盤、レッドリボン軍編に続く3度目のドラゴンボール争奪戦だったが、その中に黄金期の物語パターンが入れ子のように隠されていた。一方、後半部分はそのパターンが物語の骨格にあるが、登場するキャラクターが多彩でストーリー展開に変化があったので、あまりパターン性は感じられなかった。前半部分のドラゴンボール争奪戦、後半部分の黄金期のパターンに沿った展開と、この作品の集大成となった一編といえる。
DRAGON BALL(全42巻セット) (ジャンプコミックス)
- 作者: 鳥山明
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