右翼・中道・左翼

右翼・中道・左翼、三者の位置関係を直線上で表せば、中道を真ん中にして右端に右翼、左端に左翼が位置し、右翼と左翼は対局の関係にある。
だが、三者の関係を三角形上で表し、頂角に中道、右底角に右翼、左底角に左翼を置くと、右翼と左翼は共通の思考様式をもっていることに気付く。
中道が「現実主義的」な思考をし、「個人主義」「自由主義」に価値をおいているのに対し、右翼と左翼は「理想主義的」・観念的な思考をし、「社会・共同体・国家などの個人を超えたもの」「自由よりも倫理や理念、規範」に価値をおいているという特徴がある。
左翼は未来に理想の社会を実現することを目標とし、右翼は過去を理想化・美化しこれに回帰しようとするちがいはある。
また、左翼は支配・被支配のない平等な共同体・社会を理想とし、右翼は国家や組織・主君に忠誠をつくす滅私奉公的な生き方に憧れるというちがいもある。
だが、右翼と左翼がともに「個人の自由」や合理主義、功利主義に批判的な発言をする、といった共通点もみられる。
左翼から右翼へと転向する人をよくみかけるが(稀にその逆もあるかもしれないが)、これは、直線上の位置関係において、いったん中道を経由してから反対側へと移動するのではなく、三角形上の位置関係において、左底角から右底角へ(あるいはその逆へ)と横滑りに移動しているにすぎないのだろう。
思考の様式はかわらず、ただ理想とする価値観が左翼的なものから右翼的なもの(あるいはその逆)へとかわっただけなのだろう。



右翼・中道・左翼の法則

ある社会の中で、右翼・中道・左翼のどの勢力、あるいは価値観が主流となっているかは、歴史的な条件、どのような人物が社会に影響を与えたかなどによってことなってくるだろう。
だが、一般的な傾向として以下のようなパターンがみられる。
平和で安定した社会、経済的に豊かな社会が危機的な状況へとおちいると、その危機を力によって解決しようとする右翼勢力があらわれ、一定の支持をえる。
また、少なからぬ人々が不安感を解消するために右翼的な言動にすがるようになる(経済的な危機に対処するため、左翼思想が要請される時もあるが)。
混乱状態、社会的に不安定な状態が長期的に続くと、人々は平和や安定を求めて左翼的な思想にすがるようになる。
平和や安定が達成され経済的に豊かになると、人々は現状に満足し幸福感を感じるようになるので、現実批判的で理想主義的な左翼的・右翼的思想はともに忌避されるようになる。

日本の現代史をみた場合、1930年代の経済危機後、社会全体が右傾化し、戦争の長期化により人々が平和を希求するようになった戦争末期から敗戦後、左翼的な思想が社会に影響力をもつようになった。
そして、経済成長の結果、多くの人々が現状に満足感を覚えるようになると、右翼的言動・左翼的言動はともに平穏な日常生活を脅かすものとして嫌悪されるようになった。
最近のアメリカも、9・11後の危機意識の中で社会全体が右傾化し、イラク戦争の長期化の結果、平和を求める動きが活発化した。
社会が危機的状況に陥り、多くの人々が不安感を感じるようになると、現実批判的で理想主義的な左翼思想、現状の危機を力の行使で解決しようとする右翼思想が影響力をもつ。
社会が安定して、経済的に豊かになると、現状肯定的な価値観が支配的になり、右翼思想・左翼思想はともに意識されなくなる。
日本はバブル崩壊後の経済の悪化、90年代後半以降の新自由主義的政策の負の影響の結果、今世紀に入ってから左翼的な言論がマスメディアを賑わせるようになった。
また、90年代後半から指摘されていた日本社会の右傾化は、北朝鮮による拉致が明らかになってからは、一層進行したといえる。
(ただし、90年代後半に社会が右傾化した、という見解には否定的な意見もあるが。)
混乱の時代に生きがいを感じる人は別として、平和で安定した社会が望ましいと感じている人たちにとっては、生きづらい世の中になったといえる。