安倍とともに去りぬ − 戦後の民主主義


2012年12月の衆議院選挙の結果、民主党が弱小政党に転落したことによって、日本の政治は、「自民党がやりたい放題の政治を行うか」、「自民党が再び国民の信頼を失い、政党政治、議会制民主主義そのものに対する信頼が失われるか」という、(自民党が政権を取り続ければいいと考えている人たちを除けば)不毛な二つの選択肢しかない状況に陥ってしまった。
第二次安倍政権の2年間は、「自民党がやりたい放題の政治を行った」2年間だったし、今回の解散総選挙もその延長線上にある。
ただ、短期的にみた場合は、あと4年間政権与党でいられるということで、自民党の政治家やその支持者たちは今回の解散総選挙ならびにその結果を肯定的に評価しているかもしれないが、5年、10年というスパンでみた場合は今回の解散が自民党の信頼低下、三度目の野党転落の大きな要因となるかもしれない。
これから数年後、経済状態が今よりも良くなっていれば自民党ならびに安倍政権(あくまでも失脚も退陣もせず総理で居続けた場合だが)は高い支持を得続けるだろうが、経済が今以上に悪くなった場合には、2016年の任期満了まで待たず、国民の多数派が望んでもいない状況で解散を行った今回の1件が手痛いしっぺ返しとなるかもしれない。


2年後の2016年、経済状態が今よりも悪くなり、政権や自民党に対しての不満が高まった場合。
今回、解散総選挙が行われていなかったら、2016年の参議院選挙、そして2016年12月に任期満了となって行われる衆議院選挙で国民は意思表明を行うことになり、それが政治に対しての不満のガス抜きとなることだろう。
だが、今年、衆議院選挙が行われたことにより、2016年頃、国民の間で解散総選挙を望む声が高まっても、1日でも長く政権与党で居続けたいと考える自民党の総理大臣は、2018年12月に任期満了となるまで衆議院解散総選挙は行わないだろうから、国民の不満は溜まる一方となり、2007年夏の自民党参院選敗北から2年間の出来事が再び繰り返されるかもしれない。
ただし、2009年の時は民主党という自民党に代わる受け皿があったが、これから数年間のうちに自民党に代わって政権を担える政党・政治勢力が台頭する可能性は低いから、2018年に衆院選が行われた後には、現在のような1強多弱ではなく、自民党も含め少数政党、弱小政党が乱立するという状況になるかもしれない。
連立政権を成立させようとしても、各政党とも政策・価値観がバラバラであり、過半数越えをする形で連立政権が組めないという状況に直面するかもしれない。
その暁には、政党政治や議会政治に対する信頼も地に落ち、やがては第2次大戦前のドイツでナチス政権が誕生したのと同じような状況に陥るかもしれない。
(2016年頃、国民の間で解散総選挙を望む声が高まった時に、時の総理大臣が民意を受けいれ解散総選挙を行えば、2007年夏の参院選後から2009年までの状況の再来だけは防げるかもしれない。ただ、その時点で既に政党政治、議会政治への信頼がなくなっている可能性もあるが。)


○戦後の民主主義−「終わり」の始まり
安部晋三は(失脚も退陣もせず総理大臣で居続ければ)、これから4年間、じっくり時間をかけて念願だった「戦後レジームからの脱却」路線を推し進めるだろう。
経済情勢が良ければ、国民の高支持率を背景にして「戦後レジームからの脱却」とやらは成功しやすくなるだろうし、経済情勢が悪くなり支持率が低くなったとしても、政治生命を賭けて「戦後レジームからの脱却」をやり遂げようとするだろう。
もっとも、第三次安倍政権成立後、ただちに「戦後レジームからの脱却」路線を推し進めるのか、半年か1年位は様子見をした上で推し進めるのかは不明だが。


戦後レジームからの脱却」路線が成功するかは、自民党が一枚岩となって「戦後レジームからの脱却」路線に協力するか、それともその路線に反対する勢力の抵抗がおこるかによって決まるだろう。
また、思想や価値観としては「戦後レジームからの脱却」路線に批判的な筈の公明党の態度も注目となる。政権与党にとどまることを重視してそれに協力するか。それともそれに歯止めをかけようとするのか。
また、公明党が「戦後レジームからの脱却」路線に非協力的な態度をとった時の総理の対応も注目点だろう。公明党との選挙協力体制を維持するために、公明党に対して融和的な態度をとるのか。それとも連立を解消して「戦後レジームからの脱却」路線に協力的な党と連携していくのか。


今後、経済情勢がよくなり国民の高い支持率に支えられながら「戦後レジームからの脱却」路線が着々と進められれば、戦後憲法体制、戦後民主主義体制は文字通り終焉するだろう。
一方、経済情勢が悪化して政権への支持率が極度にさがった場合、あるいは政権への支持率自体は高いが、「戦後レジームからの脱却」路線に対しては国民の多くが否定的な反応をしめした場合。
安部晋三が失脚も退陣もせず長期政権を築いた場合は、国民の支持などは気にせず強引に「戦後レジームからの脱却」路線を推し進めるだろうから、政権や自民党に対する不信感は高まる一方となるだろう。
戦後レジームからの脱却」路線が成功すれば、戦後憲法体制、戦後民主主義体制は変革される。
また、失敗した場合は自民党だけではなく、議会制民主主義そのものに対する信頼が失われて、民主主義が機能不全に陥る。
いずれにせよ、今後、10年か15年位の間に、70年ちかく続いた戦後憲法体制、戦後民主主義体制が崩壊する可能性はかなり高いような気がする。
ただ、そうなったとしても、占領軍の力ではなく日本人自身の手で民主的な憲法、民主的な政治制度を再びつくりあげようとする動きがでてくるだろうから、戦後憲法・民主主義体制の崩壊を望まない人たちは、その時に備えて基礎体力をつけておくしかないだろう。


<おまけ>
ここでは、今後、安倍晋三がかって唱えていた「戦後レジームからの脱却」を本格的に推し進めるだろうという前提で論をすすめた。
が、実際には「戦後レジームからの脱却」とやらは行わず、経済政策と外交政策のみに注力した場合には、ここで述べた説は論拠を失うかもしれない。
(ただ、2012年の自民党総裁選で、自民党の国会議員たちが石破茂ではなく安倍晋三を総裁に選んだ一番の理由は、安倍晋三の唱える「戦後レジームからの脱却」を実現して欲しいからだろうから、「戦後レジームからの脱却」路線を引っ込めるとは思えないけれども。)